リレーエッセイ「私の育自」

「ガラガラぽんでやっちまえ!」

私が育自の魔法をやったのは、かれこれもう5、6年ぐらい前になるでしょうか。

私は当時、障がい者の方々の就労支援の仕事をしていました。障がいも様々です。精神障がい者、知的障がい者、身体障がい者など、障がいの程度も状況も本当に個々で違います。そういった方々は障がいを持ってない方々に比べると、比べるのは良くないのかもしれませんが、どうしてもそのハンディキャップゆえに働くうえでうまくいかないことがしばしばあります。

例えば精神障がい者の方は、なかなかフルタイムの仕事をするには体力や気力が持たなかったりします。知的障がい者の方は、 読み、書き、話す、計算等に困難さを抱え、通常業務がままならないこともあります。身体障がい者で言えば、例えば聴覚障がい者はコミュニケーションに難を抱えがちです。それらは何を意味するかと言うと、就労そのものがなかなか決まらないだけでなく、就労しても仕事や対人関係でうまくいかなかったり、就労の定着もまた難しく早々に辞めてしまうことも多いということです。

そうなると、就労だけでなく人生で起こる様々なことに傷ついてしまって、なかなか自己肯定感や自尊心といったものが育まれないままに生きづらさを抱えている人も多かったです。また、そういった方々のご家庭もまた、しばしば大変困難な状況に置かれていることがありました。虐待の連鎖という言葉がありますが、貧困の連鎖しかり、障がいの連鎖しかり、生きづらさの連鎖しかり、そういった傾向は多かれ少なかれあるように思います。そういった当事者やご家族と関わっていく中で、こういった方々が何か自己肯定感を上げるようなことはできないかな、そんなことを思って私は職場で自尊感情を育むワークショップというものを小人数を対象に始めました。そんな中で育自の魔法と出会ったのです。

そして思ったのが、育自の魔法であれば大人数を対象にやれるのではないかということです。 都の委託事業としてやっていた事業所でしたので、予算は乏しいです。だったら一発、一回ぽっきりでなるべく多くの人に来てもらおうと企画し、代表のひとみさんに来て頂きました。

そこで考えていたことが「多様性」です。例年は当事者の働く意欲を喚起するような講座、あるいは親御さん亡き後の生活設計の講座といったように、対象を絞っていましたが、今回は当事者、親御さん、支援者、一般市民等々、ガラガラぽんで多様性を実現させてやろうと、そんなことを思ったような気がします。たぶん。そうして、地域の様々な事業所にチラシを配ったり、ポスターを貼りに行ったり、知り合いに電話したり、そう言えば本業そっちのけでいろいろやったなぁと今思い出しました。

そうして当日、やっちゃいました!当事者、親御さん、支援者、市議会議員、一般市民、等々、誰が障がいを持って誰が支援者で誰が親御さんか、さっぱり分かんないようなごった煮状態で、パート1を開催しました。私にとって何よりも嬉しかったのは、上も下もない、貴も賤もない、優も劣もない、ただ対等に横のコミュニケーションが図られて、みんなでワイワイやっていたことです。

そして翌年、またやっちゃいました!

パート2、自分の好きを語る。正直、前年のパート1のことはあんまり覚えてなくて、実はパート2の印象の方が強いのですが、この時もごっちゃ煮の多様性はもちろんでしたが、参加者の皆さんに自分の好きなものを持ってきてもらって語ってもらったことで更なる変化に立ち会えました。

日頃、あんまり元気がなかったりする皆さんが、笑顔でワイワイイキイキと喋っていたのです。40~50人ぐらいはいたでしょうか、そこにいた半分ぐらいは私が直接関わっていた当事者の方や親御さんです。みんなの顔が笑顔になっているのを見れて心が温かくなったことを今でも覚えています。

ただ、次の三回目はその後開かれることなく、私の職場~東村山市障害者就労支援室での「育自の魔法」はこの年で最後になりました。

というのも、私がその職場を辞めて自分の事業を始めたからです。今もなお、福祉事業所と連携して障がいをお持ちの方などにカウンセリングなどを通して関わっていますが、やはり曇った顔が笑顔になる瞬間に立ち会えることは何よりですね。そんなことを何年か振りに思い出した私のつぶやきでした。